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君になら欲張りにだってなるさ(45)

 幼い頃夢見ていたのは平凡で幸せな毎日だった。 いつか見た夢は、大切な人がとなりにいるという日常だった。 それはいつか叶うものかもしれないし、そうではないのかもしれない。 そんなふうに思っていたものだったが、今この瞬間に願いが確かに叶ってい…

ココロはそこにあるか。(45)

 それは雨の日のことだった。 ただの雨ではない。バケツをひっくり返したような、土砂降り。 環はそんな雨粒が激しく降り注ぐ街の中を走っていた。その理由はただ一つ、少しでも雨に濡れる時間を減らすためだ。 ぴしゃぴしゃと走る足に合わせて水の撥ねる…

エンジンギアは突然に(45)

 自分はきっと、手のかかる年下だと思われているだろう。 きちんとしようと思った頃から、ずっと環はどこかでそう思っていた。 だが目の前の壮五は言う。『格好良い』と。 そわそわとした落ち着かない動作、交差するようで逸れる視線、その全てが今しがた…

信頼と不安に揺蕩う(45)

 知らなかったこと、知ろうとも思わなかったこと。 それらが互いに集約していく。不思議な感覚を味わう二人は、いつしか相手を尊敬し、思いやり、ときには反目することもあったがそれも乗り越えて、唯一無二であるという実感を手にしていた。 幾度となく感…

年に一度の祈りごと(45)

 ──それは一年に一度だけ巡ってくる奇跡のチャンスだと知った。  幼い頃、同じ年頃や年下の子供たちと集まって絵本を読む機会が多かった。施設の中では自然なことで、環自身それを楽しく思っていてよく中心で楽しんでいたものだ。 童話は季節を感じさせ…

相応しい言葉はそうではなく(45)

 それはひょんなことだった。 ステージの上で、ほんの一瞬だけ壮五がよろけたのだ。とは言っても、致命的なものではない。 用意にふみとどまることの出来るだろう、そんな軽いもの。 それでも環の身体は反射的に動いて、壮五を支えることが出来る位置で万…

相棒はもう半身で(45)

 どうしても、どうしても、どうしても、君が足りなくて。 環くんが一人で泊まりのロケに向かって、どうしようもなく落ち着かない気持ちになる。 君がもう僕を必要としてはいないのだろうと、知ってはいるんだ。 ただ僕が──もう、君がいないと駄目になっ…

幸せの四つ葉(45)

 メッゾの二人の受け持つ番組は、外でロケをするものも多くある。そのうちの一つで広い公園でのロケを行うことがあった。 青々と広がる一面の草花が環と壮五、そしてスタッフたちを迎える。少し離れたところにある小さな店が、今回のロケを行う場所だ。 い…

夢に見る言葉(45)

「好きだよ」 その声を待ち望んでいた。夢なのか現実なのかすら分からない。だが、その言葉だけは天にも登るように気持ちにさせる。 それだけで充分なような、もっともっとと強請ってしまいそうな、気持ちが複雑に混ざりあっていた。 自分のことを大切にし…

悩ましきは恋心(45)

 心を偽る、それは壮五にとって残念ながら慣れたことだ。 心を、気持ちを、多くを偽って、押さえ込んで生きてきた。 そのはずだ。 けれど、初めてそれをはっきりと苦しく感じた。仲間への偽り、友への感情を飲み込み、そして──環への気持ちに蓋をする。…

我儘な僕(45)

 終わりなんて忘れてしまった。 夜になれば君をただ求めてしまう。 途切れることはあるが、中断でしかなく終わることなどない。また夜がやってくると当たり前のように君を求める。 すっかり君のことしか見えなくなってしまった。 なんて僕は我儘になって…